大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成7年(行コ)34号 判決

京都市西京区松尾東ノ口町八番地

控訴人

国府久雄

右訴訟代理人弁護士

村井豊明

浅野則明

京都市右京区西院上花田町一〇番一号

被控訴人

右京税務署長 板橋三郎

右指定代理人

山崎敬二

桑名義信

近沢撃

江木修

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び争点

第一控訴の趣旨

一 原判決を取り消す。

二 被控訴人が、控訴人に対し、昭和六二年三月二日付けでした控訴人の昭和五八年分ないし昭和六〇年分の所得税更正処分のうち、昭和五八年分については原判決添付別表1の修正申告欄、その余の各年分については各確定申告欄記載の総所得金額を越える部分並びにこれに対する過少申告加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一 本件事案の概要は、二以下に付加するほか、原判決事案の概要のとおりであるから、ここに引用する。但し、原判決六頁一〇行目「六月頃」を「五月か六月」と、別表1の「申告納税額」を「納税額」と改める。

二 控訴人の当審における補充主張

1 調査手続の適法性について

行政手続についても適正手続は要請されるから、違法な調査に基づく課税処分も適正手続に違反するものであり、更正処分の要件を欠くものとして取り消さなければならない。

税務調査の手続の適否については、〈1〉調査の客観的必要性の存在〈2〉被調査者の私的利益との比較衡量、〈3〉社会通念上の相当性の観点から検討されなければならない。

調査を受ける者が、調査の客観的必要性の有無を判断するには、調査理由の開示が必要である。

2 推計課税の必要性について

(一) 本件においては、控訴人は、税務署職員に対し、調査理由の具体的開示を求めたのに、これを無視して、帳簿及び原始記録等の提出を求められた。

被調査者の依頼した第三者が調査に立ち会うことは何ら違法、不当ではないのに、税務署職員は、第三者の立会を理由に調査をしなかった。

控訴人は、反面調査を行わないという約束で、提出を求められた資料を提出したが、反面調査を実施され、その非を認めない態度に終始された。

右の状態で、控訴人が任意の協力を拒むことはやむをえず、直ちに調査拒否にならない。右状態で、調査に協力しないとして、推計による課税処分を行うことは信義に反し許されない。

(二) なお、控訴人は、日々営業に使う帳簿は作っていなかった。実額課税できるような資料は当時存在したが、現在は存在しない。

3 推計の不合理性について

(一) 持ち帰り弁当製造販売業

控訴人の属するフランチャイズシステムの持ち帰り弁当製造販売業「ほっかほっか亭」の営業において、商品の種類、品質、価格等は統一され、原材料も殆どは本部が供給するので、荒利益率は一定化している。ところが、店舗によって所得率が大きく異なるが、その原因は、人件費の多寡にある。

右業種の中でも、控訴人のような小規模な業者の場合、経営者自身が就労する場合とそうでない場合とで、所得率に大きな格差があり、実例によると、前者の所得率は、後者の場合の二倍以上に達する。

ちなみに、被控訴人の抽出した比準同業者のうち右京Bを除く者らは、経営者自身が就労しており、店長を置いていない。右京Bは、本件係争年に、形式的には店長を置いていたが、実質的には店長を置かず、その給料も負担していなかったため、他の同業者と同じレベルの所得率を保てた。しかし、その後店長を置いたので、所得率が著しく低下した。

したがって、経営者が就労している同業者の所得率をもって、そうでなく店長を置いていた控訴人の所得率を推計するのは著しく不合理である。

(二) スリッター業

被控訴人が、本件訴訟で同業者として抽出した七業者は、原処分庁が抽出した同業者とは異なる。前者には、後者で取り上げられた最も所得率の低い業者を欠落させている。また、前者の所得率は、後者よりも極めて高率である。

控訴人の行っている幅広スリッターとマイクロスリッターとでは、製品、機械、加工単価、加工数量、所得率が全く異なり、同業者として扱うことはできない。前者は後者より経費率が著しく高く、所得率は著しく低い。

被控訴人が、本件訴訟で同業者として抽出した者は、いずれもマイクロスリッター業者である。

したがって、後者の所得率をもって控訴人の所得金額を推計するのは著しく不合理である。

紙管やダンボール箱等の材料費は、控訴人が注文者に代わって支出し、そのまま注文者に売上金額と一緒に請求するので、これに関し控訴人に所得が生じる余地はない。したがって、右材料費は売上金額から控除するべきである。

三 被控訴人の当審における補充主張

1 調査手続の適法性について

仮に税務調査に違法があったとしても、公平かつ迅速な課税をはかるという行政目的の重要性に鑑みれば、右違法が直ちに課税処分の取消事由になるというのは相当でない。

本件では、税務署職員は、調査初日には調査理由を開示し、その後は、控訴人の都合等に配慮し、控訴人との間で事前に臨場する日を取り決めて税務調査を実施しており、裁量権の濫用はない。

2 推計課税の必要性について

税務調査において、税務署職員の措置に何ら違法はなく、反面調査を実施しないとの約束はしていない。第三者の立会については、同人が控訴人の同意した補助者であるとしても、税務署職員の守秘義務がなくなるわけではないうえ、税理士法違反の事態を未然に防止するためにも、これを排除しようとすることが不合理とは言えない。したがって、税務署職員が本件で、帳簿書類等の提示を求めたことにつき、裁量権の濫用はない。

他方、控訴人は、所得を実額で把握するに足りる正確な帳簿書類等を有しなかった。

よって、推計課税の必要性があった。

3 推計の合理性について

(一) 持ち帰り弁当製造販売業

経営者自身が就労せずに店長を置いていることは、一定の売上を上げるために使用する従業員数、給料の金額が同一である場合に限り、所得率を下げる要因になるが、現実には、右従業員数、給料の金額に差異があるため、直ちに所得率を下げることにはならない。

控訴人は、ほっかほっか亭京滋地区本部の月間標準予想損益計算書におけるよりも、店長、従業員の給料を抑えている。

次に、比準同業者において、経営者自ら常時店に出て稼働していたかどうか、他に店長的立場の従業員がいたかどうか明らかではない。特に、右京Bにおいては、少なくとも店長的な業務に従事するパートタイマーがいたものと推認できる。他方、控訴人も、本件係争各年において、店長的な業務を行うパートタイマー山田三枝子を雇用していた。したがって、右同業者と控訴人との間に、営業態様の差異があったとは言えない。

仮に、控訴人が右京Bに当たると主張する松尾橋東店と控訴人との間に所得に影響を与える営業態様の相違があったとしても、それは、山田三枝子に対し支払われていた店長手当て月額五〇〇〇円と一日当たり二時間の店長的な業務に見合った時間給の合計金額である年間四二万円の支払に尽きる。

控訴人の持ち帰り弁当製造販売業の売上金額に右京Bの所得率を当てはめ、これから山田三枝子に対する店長業務への支払年間四二万円を特別経費とみなして控除し、控訴人の総所得金額を試算しても、本件更正処分の金額を上回る。

(二) スリッター業

比準同業者の抽出につき、恣意の介在する余地はない。

マイクロスリッター業者の所得率が幅広スリッター業者のよりも高いとは言えない。

仮に控訴人が材料費の一部自己負担をしていたとしても、それは、控訴人の特殊事情ではなく、比準同業者も同様である。そして、比準同業者の所得率算出に当たり、売上金額から材料費の自己負担分を控除していない。

理由

一  調査手続の適法性について

この点の判断は、原判決理由一のとおりであるから、ここに引用する。

但し、原判決二二頁二行目「およそ税務調査を行ったとはいえないと評価されるほど」を削除する。

控訴人の当審における主張に鑑み、さらに検討しても、右判断を左右することはできない。

二  推計課税の必要性について

1  この点の判断は、2に付加するほか、原判決理由二のとおりであるから、ここに引用する。

2  甲五ないし七、九ないし二一、二三ないし三二九、乙一七、証人篠塚孝之、同小崎安高の各証言、控訴人(第一回)本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、控訴人は、昭和六一年八月七日以降の税務署職員による調査の過程で、同職員から提出を求められた所得確認のための資料につき、持ち帰り弁当製造販売業についての売上資料及び仕入れ費用に関する資料の一部並びにスリッター業についての収入金額に関する資料の一部を提出したのみで、そのほかのスリッター業についての売上資料及び両事業についての経費に関する資料を提出せず、その後本件処分後、雇人の勤務及び給与関係資料そのほかの経費関係資料の一部を提出したに止まっており、右控訴人提出資料、及びそのほか税務署の調査等により収集された資料によっては、控訴人の事業所得に関する実額の認定はできないことが認められる。

3  右1、2の事実によると、本件では、推計の必要性が存在する。

4  税務署職員に本件税務調査上、裁量権濫用ないし違法とするべき点が認められないことは一に述べたとおりである。

控訴人本人(第一回)尋問の結果中には、特定の資料を出せば反面調査を行わないという約束がなされたので、求められた資料を提出した旨の供述があるが、これは、証人篠塚孝之の証言に照らして措信しがたい。

ほかに、控訴人が資料提出等税務調査への協力を拒むことがやむをえないものとするべき事情を認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件で推計による課税処分を行うことが信義に反し許されないということはできない。

三  推計の合理性について

1  持ち帰り弁当製造販売業

(一)  乙二ないし一五、証人小崎安高の証言によると、原判決摘示被告の主張3(三)の事実が認められる。

(二)  次に、乙二、五ないし七、九、一二ないし一四、証人小崎安高の証言によると、昭和六三年一二月、右抽出にかかる持ち帰り弁当製造販売業の同業者について、各所轄税務署長は、所得税青色申告決算書に基づき、売上金額(雑収入を含む。)、及び経費の額として、決算書に記載された差引原価の金額及び事業所得の経費の合計額から特別経費(利子割引料、地代家賃、貸倒金、建物減価償却費、繰延資産の償却費、税理士報酬及び減価償却資産の除却損)の合計額を控除した金額に専従者給与額を加算した金額を把握し、そのうえ、右売上金額から右経費の額を差し引いた金額を算出所得金額として把握したが、右売上金額、経費の額、算出所得金額は、原判決添付別表3ないし5のとおりであることが認められる。

(三)  ところで、甲二ないし四、九ないし三三〇、三三五、三四一、三四四、検甲一の1、2、乙一九、二五、控訴人本人(第一、二回)尋問の結果、弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(1) 控訴人は、昭和五七年一〇月以降、京都市西京区上桂宮ノ後町三六番地において、ほっかほっか亭チェーンに属する持ち帰り弁当製造販売業「ほっかほっか亭上桂店」を営んでいる。

控訴人の持ち帰り弁当製造販売業においては、従業員は、一〇名程度で、殆どがパートタイマーである。

控訴人自身は、一日の稼働時間のうち殆どを肩書住所地で営むスリッター業に従事しており、持ち帰り弁当製造販売業については、一日に一度前記上桂店の閉店時に同店に赴いて伝票と現金等をチェックし、毎月給料計算をする程度である。このため、控訴人は、右事業におけるパートタイマーの就業管理、指導、仕入れ等の店の管理、運営の必要上、開業以来殆どの期間、店長を雇い入れ、これら業務及び通常の弁当製造販売業務に当たらせている。

昭和五九年一月以前の店長の給料額は、月額一五、六万円程度であった。昭和五九年二月から昭和六〇年末まで、店長として山田三枝子がいた。同人の右期間中の給料額は、資料のない昭和五九年一一月を除き、月額約一一万円ないし一七万円、合計三一二万四八七二円、月平均額は、一四万二〇三九円であった。

(2) 原判決添付別表3ないし5記載の各業者は、本件係争各年当時、右京Bを除けば、いずれも、他の事業との兼業をしない専業者であり、経営者自らが店長的立場を兼ねて就労していた。

もっとも、伏見Aは、昭和五九、六〇年の両年、経営者が病気のため殆ど稼働できず、その妻も従前のようには稼働することができず、その代わりに従業員を従来の七名から一〇名に増やし、使用したため、右両年の人件費が著しく増加し、しかも売上高が大幅に減少した。

右京Bについては、その経営する持ち帰り弁当製造販売店舗に隣接して兼業にかかる事務所があり、店長を一応置いていたが、同人は、兼業の事務所で働き、右店舗ではあまり稼働しなかったため、同人の給料は、同店舗では支給せず、兼業の事務所で支給していた。

(3) 持ち帰り弁当製造販売業においては、経営者自身が就労している場合、一般的に、原材料や包装資材の管理が厳格に行われるため、原価率が一ないし三パーセント程度低く抑えられる。

(四)  持ち帰り弁当製造販売業につき、前記同業者選定の経緯について検討するのに、右同業者の選定基準は、業種の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等の点で、同業者の類似性を判別する要件として一応合理的なものと考えられる。

また、右選定基準に照らし、その抽出作業につき、被控訴人あるいは大阪国税局の恣意の介在する余地はないということができる。抽出した同業者数も、持ち帰り弁当製造販売業を営む者だけで五名、後記伏見Aを除いても四名であるから、各同業者の個別性を平均化するに足りるものである。

(二)の売上金額、経費の額、算出所得金額、所得率の各数値については、青色申告書に基づいたものであるので、その正確性が担保されているものと言うことができる。

しかし、右同業者のうち、昭和五九、六〇年の伏見A以外は、経営者自ら稼働しており、その給料分は経費の額に計上されておらず、あるいは店長がいても、右店長の給料を負担していなかったものである。他方、控訴人のほっかほっか亭上桂店では、経営者である控訴人自らは殆ど稼働せず、その代わりに店長を雇って就労させ、給料を支給していたのであるから、この点が右抽出にかかる同業者と異なる。そこで、これを、同業者の所得率から控訴人の所得を推計する際の修正要素とするべきである。

また、昭和五九、六〇年の伏見Aには、雇人の構成等において通常の事態を越える特殊事情があり、これは、推計を不合理ならしめる特殊事情があると言うべきであるので、昭和五九、六〇年の伏見Aは推計を基礎づける同業者から除くべきである。

これらの考慮をすることにより、始めて前記同業者の所得率に基づき、控訴人の所得につき合理的な推計をなしうるものと言うべきである。

そこで、右の点の考慮を加え、控訴人の持ち帰り弁当製造販売業における所得金額の推計は、次のとおりとするべきである。

前記(三)認定によると、控訴人が自ら就労しなかったため、代わりに店長を雇い、給料を支給したこと、及び直接原材料や包装資材の管理が厳格に行えなかったことによる経費の増加は、昭和五八年ないし昭和六〇年を通じて、右店長に支給された金額にほぼ相当する月額一五万円、年間一八〇万円、及び売上金額の約二パーセントに当たる八〇万円の合計二六〇万円と認められる。

昭和五八年の推計所得金額

争いのない控訴人の売上金額である三五九六万七七一〇円に原判決添付別表3の平均算出所得率一一・五七パーセントを乗じた金額四一六万一四六四円から前記経費の増加分二六〇万円を控除した一五六万一四六四円。

昭和五九年の推計所得金額

争いのない控訴人の売上金額である三五六九万一三八〇円に対し、原判決添付別表4の同業者のうち特殊事情のある伏見Aを除いた同業者四者の平均算出所得率一一・一四パーセントを乗じた金額三九七万六〇一九円から前記二六〇万円を控除した一三七万六〇一九円。

昭和六〇年の推計所得金額

争いのない控訴人の売上金額である三五三〇万五三三〇円に対し、原判決添付別表5の同業者のうち特殊事情のある伏見Aを除いた同業者四者の平均算出所得率一三・一六パーセントを乗じた金額四六四万六一八一円から前記二六〇万円を控除した二〇四万六一八一円。

2  スリッター業

(一)  被控訴人及び大阪国税局長らによる同業者抽出の経緯は1(一)のとおりである。

(二)  次に、乙五ないし七、一二ないし一四、証人小崎安高の証言によると、昭和六三年一二月、右抽出にかかるスリッター業の同業者について、各所轄税務署長は、所得税青色申告決算書に基づき、売上金額(雑収入を含む。)、及び経費の額として、決算書に記載された差引原価の金額及び事業所得の経費の合計額から特別経費(利子割引料、地代家賃、貸倒金、建物減価償却費、繰延資産の償却費、税理士報酬及び減価償却資産の除却損)の合計額を控除した金額に専従者給与額を加算した金額を把握し、そのうえ、右売上金額から右経費の額を差し引いた金額を算出所得金額として把握したが、右売上金額、経費の額、算出所得金額は、原判決添付別表7ないし9のとおりであることが認められる。

(三)  スリッター業について、前記同業者選定の経緯について検討するのに、右同業者の選定基準は、業種の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等の点で、同業者の類似性を判別する要件として一応合理的なものと考えられる。

また、右選定基準に照らし、その抽出作業につき、被控訴人あるいは大阪国税局長の恣意の介在する余地はないということができる。もっとも、甲三三二ないし三三四に照らすと、被控訴人が本件処分に対する異議決定をなす際に抽出した同業者と前記原判決添付別表7ないし9の同業者との同一性につき一見疑義がないわけではないが、甲三三二ないし三三四と乙一二ないし一四とを対比すると、異議決定時抽出の同業者A、Bは、原判決添付別表7ないし9の同業者のうち、伏見A、右京Aに該当するものであり、ただ、伏見Aについては、売上金額の把握が一部異なったに過ぎないものと認められる。なお、算出所得金額が異なるのは、前記(二)認定に照らし、大阪国税局長の統一的指示に従った結果と考えられる。

抽出した同業者数も、スリッター業を営む者だけで七名であるから、各同業者の個別性を平均化するに足りるものである。

(二)の売上金額、経費の額、算出所得金額、所得率の各数値については、青色申告書に基づいたものであるので、その正確性が担保されているものと言うことができる。

(四)  ところで、甲五ないし七、三三八、検甲一の3ないし5、二の1ないし4、乙二〇、二一、二五、証人小崎安高の証言、控訴人本人(第一、二回)尋問の結果によると、次の事実が認められる。

控訴人は、肩書住所地で作業場を持ち、機械を据えて、スリッター業即ち注文者から供給を受けた紙、フィルム等を縦に長く裁断加工して納品する受託加工業を営んでいる。本件係争各年当時、控訴人本人が右作業に従事するほか、従業員二名を雇って作業に従事させていた。

スリッター業の作業内容には、大きく分けて幅広スリッターとマイクロスリッターがある。両者は、共に紙、フィルム等の裁断加工であるが、前者は、後者に比べ、切り幅が格段に大きく、加工される原材料の同一量で比べると、加工度が低く、加工時間が短い。

控訴人は、幅広スリッターのみを行っている。

原判決添付別表7ないし9の同業者には、幅広スリッターを行う者とマイクロスリッターを行う者の両方が含まれている。

控訴人は、スリッター業用に、紙管、ダンボール箱を購入して使用したところ、その支払金額は、昭和五八年に三三一万七一六六円、昭和五九年に三一三万三七八〇円、昭和六〇年に一五四万八六一五円である。もっとも、控訴人は、紙管、ダンボール箱を、注文者によっては支給を受けているところもあり、また、時期により支給を受けるかどうかの状況が変化している。

スリッター業者中には、紙管、ダンボール箱を、注文者から支給を受けている者もいるが、自己負担で調達している者もいる。原判決添付別表7ないし9の同業者のいずれがこれらにつき注文者から供給を受け、又は自己負担しているか、さらにその程度は不明である。

これら紙管、ダンボール箱代を注文者又は加工業者のいずれが負担するかは、取引当時の当事者間の事情、スリッター作業の需給関係で決まるものであり、その内実は一定しない。

(五)  乙二五及び控訴人本人(第一回)尋問の結果中には、幅広スリッターは、マイクロスリッターとは付加価値が異なるから、売上高に対する所得の割合即ち所得率が低い旨の控訴人の供述記載、供述がある。

しかし、控訴人の右所得率が異なるとの供述の根拠は今一つはっきりしないところ、付加価値が異なるからとの点は、スリッター業において、原材料である紙やフィルムは注文者から供給されるので、売上高には右原材料の価格は含まれず、したがって、原材料の量に対する加工度、したがって付加価値が高いかどうかは、売上高に対する報酬の割合に影響するとは考えられないこと、及び乙二一に照らし、右控訴人の供述は措信しがたい。

したがって、幅広スリッターを行っているか、マイクロスリッターを行っているかは、推計の合理性に影響しない。

(六)  控訴人本人(第一回)尋問の結果中には、紙管、ダンボール箱代を売上高に含めると、売上金額に対する所得率は低くなる旨の供述がある。しかし、これらは、スリッター業における原材料の主要なものではなく、付属的なものとみられること、及び(四)認定の控訴人の取引及びスリッター業一般の取引における実情に照らすと、紙管、ダンボール箱代をスリッター業者が負担するかどうかは、推計の合理性を左右するほどのものとは言えない。

(七)  以上の検討によると、控訴人のスリッター業における所得金額については、売上金額と原判決添付別表7ないし9の同業者の所得率に基づき、合理的な推計をなしうるものと言うべきである。

そこで、控訴人の本件係争各年における右所得金額を、争いのない売上金額である原判決添付別表2〈1〉(b)記載の各金額に、同別表7ないし9記載の同業者の平均算出所得率を乗じて、同別表2〈3〉(b)記載のとおり推計することができる。

3  特別経費の金額

この点の判断は、原判決三〇頁八行目から同三二頁五行目までのとおりであるから、ここに引用する。但し、原判決三一頁五行目「売上金額」の次に「及び経費額」を、同六行目「収入金額」の次に「及び経費額の各」を各加える。

4  事業所得の金額

以上によれば、控訴人の本件係争各年分の事業所得の金額は、1と2の算出所得金額の合計額から、3の特別経費の金額を控除した額である。

即ち、昭和五八年につき、

(一五六万一四六四円+五八七万八一三一円)-(五六万四七三三円+一六万円)=六七一万四八六二円

昭和五九年につき、

(一三七万六〇一九円+六〇一万八三八七円)-(三三万七七四六円+一六万円)=六八九万六六六〇円

昭和六〇年につき、

(二〇四万六一八一円+三二八万六六七五円)-(一九万七九一五円+一六万円)=四九七万四九四一円である。

四  利子所得の金額

この点の判断は、原判決三二頁一〇行目から同三五頁六行目までのとおりであるから、ここに引用する。

五  雑所得の金額

右について、原判決添付別表11(2)のとおりであることは控訴人において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

六  総所得金額

以上によれば、控訴人の本件係争各年の総所得金額は、

昭和五八年

六七一万四八六二円+一六二万八三六五円+一〇万五〇〇〇円=八四四万八二二七円

昭和五九年

六八九万六六六〇円+二〇四万一三九九円+六万〇六一七円=八九九万八六七六円

昭和六〇年

四九七万四九四一円+一九二万〇二二八円=六八九万五一六九円

である。

したがって、被控訴人の本件係争各年分の更正処分は、いずれも、右総所得金額の範囲内でなされたものであり、これに違法な点はない。

七  結論

よって、控訴人の本件請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当である。

よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井関正裕 裁判官 河田貢 裁判官 高田泰治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例